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東京地方裁判所 平成8年(特わ)3894号 判決 1997年5月12日

本店所在地

東京都江東区新大橋三丁目一二番八号

株式会社大島

(右代表者代表取締役 大嶋宏)

本籍

同区平野二丁目五番地

住居

同区猿江二丁目一六番二三号

ダイアパレス猿江恩賜公園一二一九号

会社役員

大嶋宏

昭和六年九月一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官石垣陽介及び弁護人鎌形寛之各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社大島を罰金三五〇〇万円に、被告人大嶋宏を懲役一年六月に処する。

被告人大嶋宏に対し、この裁判の確定した日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社大島(以下「被告会社」という。)は、東京都江東区新大橋三丁目一二番八号に本店を置き、室内装飾の施工等を目的とする資本金二(ママ)八〇〇〇万円の株式会社であり、被告人大嶋宏(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、外注加工費を架空・水増し計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億八八二四万七九九八円(別紙1修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成五年五月二七日、東京都江東区猿江二丁目一六番一二号所在の所轄江東西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億三六七七万六一七二円で、これに対する法人税額が四八二九万五七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第二四二号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額六七五九万七三〇〇円と右申告税額との差額一九三〇万一六〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億六四四四万六〇二三円(別紙2修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成六年五月二七日、前記江東西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が七七六九万三〇二一円で、これに対する法人税額が二六九一万四九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額九六九四万七三〇〇円と右申告税額との差額七〇〇三万二四〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ

第三  平成六年四月一日から平成七年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が二億三二四七万三一六九円(別紙3修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、平成七年五月二九日、前記江東西税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億〇〇七一万八五〇二円で、これに対する法人税額が三六五七万五一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額八五五五万七七〇〇円と右申告税額との差額四八九八万二六〇〇円(別紙4ほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

<注> 以下の甲に続く数字は、当該証拠の証拠等関係カード(検察官請求分)甲での番号を漢数字で表記したものである。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(二通)

一  高橋陽生、柾屋安富、斎藤真由美、大嶋秀元及び徳永光男の検察官に対する各供述調書

一  高橋廣志の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の当期材料仕入高調査書、外注加工費調査書、報酬給料調査書、支払手数料調査書、交際接待費調査書、受取利息調査書、雑収入調査書、雑損失調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、交際費損金不算入調査書、貸倒引当金限度超過額調査書及び貸倒引当金認容調査書

一  大蔵事務官作成の領置てん末書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲九、一三、二〇、二五、二八、二九、三八)

一  東京法務局墨田出張所登記官作成の履歴事項全部証明書

判示第一及び第二の事実について

一  大蔵事務官作成の退職給与引当金繰入限度超過額調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲六、一七)

判示第一及び第三の事実について

一  大蔵事務官作成の設計料調査書及び解体外注費調査書

判示第一の事実について

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲四五)

一  押収してある法人税の確定申告書一袋(平成九年押第二四二号の1)

判示第二及び第三の事実について

一  大蔵事務官作成の退職給与引当金戻入調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲二七)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の固定資産売却損調査書

一  押収してある法人税の確定申告書一袋(前同押号の2)

判示第三の事実について

一  康貴俊の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の修繕費調査書、租税公課調査書、家賃収入調査書及び課税留保税額調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲四四)

一  押収してある法人税の確定申告書一袋(前同押号の3)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当するところ、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年六月に処し、情状により右刑法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予し、さらに、被告人の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については法人税法一六四条一項により同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は前記刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金三五〇〇万円に処すこととする。

(量刑の理由)

本件は、判示のとおり室内装飾の施工等を営む被告会社の代表取締役であった被告人が、売上を除外するなどの方法により所得を隠匿し、三事業年度にわたって合計一億三八〇〇万円余の法人税をほ脱した事案である。ほ脱額も右のとおり高額であり、ほ脱率も通算で約五五・三パーセントに達している。そして、所得秘匿の態様をみると、取引先や下請業者と通謀の上、材料仕入高を繰上計上したり、外注加工費を架空・水増計上していたほか、報酬給料を架空計上し、さらには、被告会社所有の不動産やゴルフ会員権を被告人や被告会社役員に売却したように仮装して、固定資産売却損及び雑損失を計上することをもしているのであって、所得秘匿工作は多種多様な範囲に及んでおり、悪質である。被告人は、本件犯行に及んだ動機について、不測の事態に備えての被告会社の資金作りをするとともに、得意先に渡すリベートに充てる裏金を作るためであった旨供述しているが、国の財政が国民の公平な税負担の上に成り立っていることを考えれば、いかなる理由にせよ不正な行為で納税義務を免れることなど到底許されるところでなく、酌量に値しない動機である。以上の諸点からすれば、被告人及び被告会社の刑事責任には重いものがある。

しかしながら、被告人は、本件発覚後は犯則調査及び捜査に協力し、反省の情を示していること、被告人には前科・前歴がないこと、被告会社は、その後本件に関する分を含めて修正申告をして、国税については本税、延滞税等を完納し、地方税についても大半を納付していることなど被告人及び被告会社のために斟酌すべき事情も認められる。

そこで、これら本件の審理に現われた一切の事情を併せ考えた上、被告会社及び被告人を主文の刑の処し、被告人についてはその刑の執行を猶予するのを相当と判断した。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社につき罰金四〇〇〇万円 被告人につき懲役一年六月)

(裁判官 阿部浩巳)

(※判決文中資本金二八〇〇〇万円とあるのは二八〇〇万円の誤り。)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙2

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙3

修正損益計算書

<省略>

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

株式会社大島

自 平成4年4月1日

至 平成5年3月31日

<省略>

自 平成5年4月1日

至 平成6年3月31日

<省略>

自 平成6年4月1日

至 平成7年3月31日

<省略>

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